ひさしぶりに文学を読んだ ミシェル・ウェルベックの「地図と領土」

最近はめっきり電子書籍派になってしまい、書店に行くこともなくなってしまっていた。 うちの近くから大きな書店といえば池袋か神保町かという感じだが、どちらもあまり行く機会が減ってしまい。

電子書籍ストアはある程度読みたい本がタイトル決まっていたり、今このジャンルを勉強したいと決まっている場合はとても良いんだけれども、予期しない出会いというのは少ない。 要するに、自分の持っている検索ワードからたどれるところにしかたどり着けない。 最近、電子書籍ストアで使う検索ワードも枯渇してきてしまい、あまり読みたい本が見つからないという状況に陥っていた。

そこでたまにはノイズにあふれた光景を見ることで、新しい刺激を入れようと思い、久しぶりに書店に行ってみることにした。

電子書籍ストアに慣れてしまうと、出版社別に並べるのは不便だなと思う。本棚に収まったときの見た目はいいかもしれないが、探しにくい。

昔を知らないので想像だが、昔は出版社の発行する目録とか、文庫巻末の広告を見て次に読むものを決めていたから出版社別に並んでいたほうが探しやすかったのかもしれない。 でも今そういう探し方する人ってそんなにいないんじゃないだろうか。 検索によって、人類の情報整理方法は変わっているのだと思うのだけれども。

一方、数学とかの本は同じ分野のものが並べられていて、中をぱらぱら見てどれが良さそうか見えるのはよい。これは電子書籍ストアにはない利点だ。 まぁ僕は全然数学を本格的にやっているわけではないので、部外者向けの「よくわかる」とか「なっとくする」みたいな枕詞がついているやつしか見ないんだけど。

↑ 大学時代はこのシリーズでがんばりました

書店の中をいろいろ見て回っていて、創作もめっきり読まなくなってしまっていることを思い出した。 読むのは人文科学系や社会科学系の本が中心で、小説もここしばらく、下手したら年単位で読んでいなかった。 せっかく来たし、一冊くらい買って帰ろうと思いたち、文庫コーナーに行った。

そこで、けっこうタイトルからもうこれしかないというのが目に入った。

地図と領土 (ちくま文庫)

地図と領土 (ちくま文庫)

それが、ミシェル・ウェルベックの「地図と領土」

まったく知らなかったんだが、ウェルベックというは今とても有名な作家らしい。そしてその新作が最近出たので、最新作が大々的に押し出されていて、過去作もその周りに特集されていた。

タイトルの「地図と領土」とはなんなんだろうか。 主人公はアーティストで、ミシュラン発行のフランス国内地図を写真に収めた作品が注目されたことで現代アート界に躍り出る。でも「領土」が何をさすのだろうか。 フランスという国のいろいろな部分を知ることになるのだが、それが「領土」なのだろうか。

タイトルから想像していたような内容はなかったが、それはそれで読んでいて面白かった。 芸術というものが、資本主義的に生み出されて流通していることをはじめ、「劇的なもの」は世界には存在しないということが主題なのかもしれない。 ネタバレになるが、劇中人物のウェルベックはとてもミステリアスな方法で殺されてしまう。でもそれはウェルベックの持つ絵を奪ったことをカモフラージュしていただけの、しょうもない理由だったのだ。

この小説は現代のフランスを舞台にしたもので、現代のフランス文化というのが現れている。 言葉をいくら学んだところで、こういう文化的なコンテクストというのはわからないのでこういうのが垣間見えるのが面白い。

今フランスでお金持ちといえばロシア人で、フランス人の所得は伸びていないので国内の高級ホテルやレストランはもうフランス人の泊まれるものではなくなってしまっている、とか。 エールフランスにのるときよりライアンエアーに乗るときのほうが行楽という感じがしてワクワクするとか。コレ自体はこの主人公の性格も入っての話だが、「ライアンエアー」がヨーロッパでどういう存在なのかをなんとなく感じられる。 日本で言ったらなんなんだろうか。深夜バスみたいな存在? 単に安いというだけでなく、今までだったら行かなかったようなところにも行ってみようと思わせ、ヨーロッパ人の精神的なつながりを強化した役割もあるかもしれない。

たまには文学を読むのもいいものだなぁと思った。