映画「JOKER」とワイドショー

昨年話題になったJOKERを見た。 言わずもがなという感じであるが、バットマンの宿敵ジョーカーがどう生まれたのか、という話について「一説」をとなえる?作品である。

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アメコミの「ユニバース」文化

アメコミのこういう文化って本当に不思議だなと思うんだけれども、同じキャラクターの話なのに複数の違う世界が存在している。 「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」と「ダークナイト」と「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」はすべて共バットマンの話だが、それぞれは違う世界の話である。 一方で、「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」と「ワンダーウーマン」や「スーサイドスクワッド」はDCEUという同じ世界を共有しており、同じ時間軸の上に存在している。

これは映画に限った話ではなく、コミックスも含めて複数の時間軸が存在しており、キャラクターが同じでも違う世界観だったりキャラクターが違っても同じ世界観で共演してたりする。 日本の漫画だと、基本的にはタイトルごとにひとつの時間軸しか存在しないというのが普通(ドラえもんとかクレヨンしんちゃんあたりは映画ごとに独立していそう。)であるが、アメコミは各社こういう作り込みがあるのが不思議だなぁと思う。

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思うに、スーパーマンだとかバットマンのようなものはキャラクターのリポジトリになっており、あまり明るくはないがクトゥルフ神話のようなものなのかもしれない。 たとえば。今回のジョーカーではブルース・ウェインという子供のキャラクターが出てくる。バットマンシリーズを見たことがあればすぐわかるが、未来のバットマンである。

ディティールはともかくとして、ブルースは大企業の御曹司だったけれども子供の頃に両親を悪党に殺されてしまう。そしてその後成長して、親から受け継いだ会社を使っていろいろなハイテクガジェットを開発し、それをまとってゴッサムシティの悪党退治をするというのはどのシリーズでも共通のプロットだ。 「ジョーカー」には一切これは描写されないが、観客もそれをわかった上でみていることが想定される。なので、あとは言わなくてもわかるよね?といわば「借景」ができるわけだ。

僕はもともとカートゥーンネットワークで「バットマン アニメイテッド」とかをみていたので、ジョーカーはまぁ悪役なんだけどなんか面白みがあるキャラクターというイメージだった(ハーレイクインとの掛け合いなど)昨今のアメコミのやたらシリアスな路線には戸惑いがある。

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まぁ面白いんだけど、でもこういう子供向けのキャラクターだったはずなのに不思議だなぁと思う。

話を戻すと、このJOKERは前述のDCEUとは関係がなく、この作品だけで独立したものになるらしい。 なので、JOKERで描かれるジョーカー誕生の物語はJOKERに限った話となり、ほかのジョーカーが出てくる世界とは関係しない。

JOKERがあぶり出すもの(ここからネタバレ注意)

JOKERの中では、ジョーカーが生まれた理由が比較的社会的なものというか、貧困や社会的分断が暴力を生み出すという言ってしまうとかなり社会派作品としてLegitimateなストーリーになっている。 しかしまぁ、悪役の誕生秘話を作ろうと考える理由は何なのだろうか。

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社会の不安について、明快な答え(この場合であれば社会不安がジョーカーの存在で、その答えはジョーカーの生まれ育った環境となる)を提示することによって安心させるということがこの映画のもたらした効果なのかもしれない。 この映画の中の世界は最後まで「救いがない」が、JOKERで描かれる悪は貧困や格差が原因となっている。 現実世界に生きる我々は、貧困や格差がなくせと叫び、(自分の思い通りの)アクションを起こさない政治家をテレビで見ながら愚痴を言って溜飲を下げればよい。観客には救いがあるのだ。

現実世界でも、キャッチーな犯罪が起きると犯罪者の過去が徹底的にワイドショーの標的となり、子供時代を知る知人へのインタビューだったり学生時代の作文を晒し上げたり、なぜ「その」ように育ってしまったのかが人々の興味を集める。 無関係の第三者がそれを知ったからと言って何も変わらないのだが。

前述のような、貧困・格差・社会的分断がジョーカーを生み出す原因となっていることから、本作品は社会派作品のようでいて、その実我々の不安を生み出す脅威に対して過去をほじくり出すことでわかったつもりになり安心したいというワイドショー的窃視欲望を満たす作品になっているのではないだろうか。

ジョーカー(字幕版)

ジョーカー(字幕版)

  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: Prime Video

お題「#おうち時間