ソビエト連邦は理念的にも失敗していた 〜プーチン・ロシアの歪んだ民族主義

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プーチンはソビエト連邦崩壊を「20世紀最大の地政学上の悲劇」と表現したらしい。 ニュースではその出典が示されないので本当かどうか、記者が他のニュースから又聞きで書いている可能性も否めないけれども。

こういった発言があったことはつい最近、ウクライナ侵略のニュースを追う中で知ったものであるが、こういった発言があるということは経済的に自由主義世界に遅れを取ったというエクセキューションの失敗以前に、理念のレベルで失敗していたということになるだろう。

非ナチ化を要求するネオナチ国家 ロシア

プーチンにとっては、ソビエト連邦というのはイデオロギー的なものはもはや関係なく、単に「強いロシア民族が主導する帝国」でしかなかったということである。 社会主義の理念というものはどうでも良くて、「西側」の人々を堕落させた自由主義に対立できる旗印があればなんでも良いということになるだろう。

プーチンをヒトラーになぞらえる絵を掲げている写真が、ヨーロッパ諸国における侵略抗議デモで見られるけれども、単に悪者というイメージを重ねるだけでなく行動原理のレベルでも近しいものを持っている。

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ウクライナ人たちは本来ロシア人と同一であるにも関わらず、「西」に近づき堕落しようとしているのを止めなければという上からの考え方で圧力をかけてみたところ、抵抗された。つまりすでに堕落してしまったので救いようがない。強いロシア民族のためには粛清が必要である、といったようにこの2週間で考えられるようになっているのではないだろうか。

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ナチス政権下のドイツにおいては、ユダヤ人やジプシーたちに対してあまねく迫害が行われていたのはもちろんご存じと思うが、同性愛者への迫害は「ドイツ人男性」だけに対して行われていたらしい。

encyclopedia.ushmm.org

他の劣等民族が同性愛に耽って子供が減るのは願ったり叶ったり、ドイツ人は増えなければいけないからその邪魔になる存在は排除しなければならないということである。 市街地への空爆など非軍事目標への攻撃が増えているというが、プーチンにとってのウクライナ人はそういう存在になりつつあるのかもしれない。

そういえばロシア国内でも同性愛に対する公然的な暴力が行われているらしい。

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(とはいえ、今の世論的にはウクライナは清廉潔白、ロシアだけが完全に悪いという感じであるが、、ウクライナという国もドンバス地方においてロシア系住民に対して暴力を加えていた自警団のような団体を公認の準軍事組織にしていたりするというのは事実のようである。)

資本主義は帝国主義を乗り越えつつある

レーニンは資本主義の先に帝国主義があると考えたが、第二次世界大戦の後資本主義は帝国主義を乗り越えつつある。 マルクスやレーニンは、たとえば自動車というものは世の中に一種類あれば良いもので、価格も一つに決まりうるという古典的な市場経済のモデルしか想像することはできなかったのだろう。

しかし、実際には自動車ひとつとっても人それぞれ求めるものは違っていて、多少高くてもその価値をわかってくれる人に売るということができる。ここで付加価値を生み出すことによって、より多くの資源を使ったりより多くの植民地を抱えていなくても成長ができるとなりつつある。

ブランドの世界観に共鳴して買う「共感経済」なんてものは、全く想像もできなかっただろう。

ロシアは帝国主義を乗り越えられなかった

一方のロシアは、売るものが天然ガスと石油しかない。資源は付加価値がつけようがなく、まぁマルクスやレーニンが想像できていたタイプの財である。

共産主義的な社会では、生産される財はその種類の財として最低限の価値しか持たない。(もちろん権力者のためには色々用意されていたわけだが。) 車は、車でしかない。自動車メーカーの利益は単に生産量と販売量だけで決まる。

この常識を持っていて突然資本主義の世界に放り込まれたらそれこそマルクスの時代と同じ状況である。今さら帝国主義を繰り返すのだ。

ロシアの人々への理解

マルタでフラットメイトだった50代のロシア人医師に、ソ連の思い出を聞いたことがある。

ソ連時代は、子どもだけで外に遊びに行けるくらい治安も良かった。みんな貧しかったけれども他人の子どもでもお腹が空いていたらご飯をあげる優しさもあった。今は一部の人たちはとんでもなく豊かになったけれども、多くの人は貧しいままだし、子どもだけで外に出かけるなんで危なくてできやしない。

とのことだった。

西側で育った人にとっては、ソ連時代はきっと貧しくて秘密警察に監視されていて最悪だったでしょ、ソ連崩壊して良かったね!というふうに想像してしまうだろうが、特にロシアの年配者にはソ連時代というのが、日本でいうところの「三丁目の夕日」「昭和ノスタルジー」的なポジティブな印象を持っている。

物質的には貧しかったけど心は豊かだった時代を、日本人は自分たちで捨ててきたわけだが、ロシアの人々にとってはアメリカ人たちが奪ったという意識があってもまぁおかしくはない。

残念ながら、今回の事態を受けてもロシア国内におけるプーチン支持率は高まっている。反プーチン運動が、というのは比較したら小さな動きでしかない。今回の戦争も、プーチン個人のというよりかはロシア国民が選んだ道であると言わざるを得ない。

今のような経済制裁のやり方では、一時的にロシア政府の資金を絶って戦争を継続できないようにすることはできたとしても、むしろロシア国民を反米・反グローバリズム・反西側で団結させることになりやしないか?と思い始めている。

我々としては、ロシアと敵対したいわけでもないし、今のロシアのような権威主義的体制に屈服したくもない。(でしょ?)ロシアに西側化してもらうのが一番いい。 だとしたら、ロシアの人々の抱える恐怖やトラウマを理解した上で、「西側の生き方」の方がいいなと思わせていく戦術が必要なのではないか。

Netflixやディズニーは撤退以外にできることがあったのではないか?と思う。

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※前も他の記事で書いたけれども、ロマという表現は「ジプシー」とされた集団の一民族だけを表す言葉なのでジプシーの代わりにはならない。また、ジプシーという言葉を封印するのはその集団をジプシーという集合とみなしたことによる事態について語り得なくするので良くないと思う。

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