前回からの続きみたいなものだが、代ゼミに荻野暢也という先生がいる。通称、「数学ヤクザ」。 接点Tだとかこの点は出ねーよ!?とかで有名なのでネタとして知っている人もいるだろう。
前回の記事はこちら
天空への理系数学
そんな先生だが、決して単にパフォーマンスだけの先生ではない。
僕の数少ない高校時代からの友人がいる。 彼は中学入試で入った組なのだが、出会った時には授業は全て睡眠学習、校内模試は毎回下位1桁というような状態。
そんな彼も高3になって受験勉強を始めたのだが、この先生の「天空への理系数学」「勇者を育てる数学」を学校に持ってくるようになった。 それではじめて数学が面白いと思った!Σ記号の意味がようやくわかった!と言っていたのを思い出す。
最終的には国立大学に滑り込んだのだが、他の科目は全く勉強している姿を見たことがないのでなんとか数学だけで盛り返したんじゃないかと思う。
受験生へのメッセージ
「お茶飲みWiki」の発見以来、大学受験・予備校の話を懐かしみながら色々調べているのだが、荻野先生の授業を録音した音源がYouTubeで、流出しているのを見つけた。 グレーなものにはなるのだが、とても良いのでぜひ聞いてみてほしい。
大学に行くまでは通知表の左側、つまりお勉強の成績がよければよかった人生だったろうけど、大学以降は通知表の右側、人間性が伴わないといけない人生になっていくぞ、だから大学に入ったらそっちを育てる努力をしなさいよ、、というお話。
※小学校の通知表って左側に各科目の評定、右側に講評欄があるよね、というところからこのような表現になっている。
この動画に対するコメントは賛否両論。
否のほうは、
- 授業料をもらっといてながながと数学以外の話するなよ
- いい大人が子どもに対してイキるなよ
- この程度の話で人生の先輩感を出すなんてやっぱり予備校教師って世間知らずで精神的に幼いな
みたいな感じ。
この話自体は、他では聞けないというほど深い話というわけでもない。(ただここまで聞かせる話し方ができる人はなかなかいない)
偏差値エリート集団とその周りにいる大人たち
ただ、みんながみんな東大を目指しているような特異な集団を経験していれば共感してくれる人もいるのではと思うが、そんな集団にいるとこの程度の常識ですら言ってくれる大人がいなかったように思う。
人によっては小学生のころから偏差値が人間の価値だと刷り込まれてきて、東大に行けるか行けないかで人間の価値が変わるような集団幻想をもっているわけである。
具体名は伏せるが、休み時間の雑談ではとある大学がよく槍玉にあがってその大学なんか人生の敗者が行くところだ、みたいな話で笑い合ってるような具合だ。 その大学だって世間的にはむしろ難関大学とされるようなところなのだが。
挙げ句の果てに大人も授業で同じようなことを言って生徒と一緒になって大学名で笑いを取っている始末。 そんな大人はSEG講師にもZ会講師にもいたし、「毒舌が面白い」と人気になる傾向すらある。
※講習だけ受けた先生なので、前の記事の青木亮二先生などではないです、念の為。
「この問題は明治大学の問題です。明治大学はスポーツの世界では有名ですが、勉学の世界では全くの無名です。ここにいる皆さんは理系でしょうから、これからスポーツでバリバリやっていきたい、そういった人は少ないはずです。この時期にこの問題を解けない、そのようなことはあってはならない。」
これはだいぶマイルドな例だけども。
東大の4年間
でも10年前を振りかえり、他の大学ではなく東大に通ったことに何か価値があったのか?と考えるとそんなにはないなと思う。
国立で親にかける学費負担が減らせた、楽で高時給のバイトができた、くらいじゃなかろうか。
それは今になって思えば通知表の右側を育てる努力をしなかったことが原因だった。 ただ院の2年間は自分でもなんとかしようと思ったのか有意義な時間にできたと思う。
自分は現役だったのでまだいいけれども、一年浪人してまで行っておいてこれだったらもっと後悔していたかもしれない。
受験生と予備校講師の距離感
貼った動画は高卒東大志望クラスでの話らしい。センター試験終了後の追い込みシーズンの授業のようだ。
高3のころを思い出すと、こういう話に耳を傾けたがる人は少なかった。 お勉強を教えてくれるか、偏差値の低い大学を一緒にネタにしてくれて通知表の左側が高い自分のプライドをくすぐってくれるかのどちらかの話じゃないと聞く耳を立てなくなっていく。
ある先生が通知表の左側に役にたたないとみなすと、その先生の授業中には見せつけるように鉄緑会テキストを取り出して他教科の勉強をし始めるような同級生も多かった。
東大志望の浪人生とはつまり人生の貴重な一年間を浪人生=実質無職として浪費するほど東大に価値があると思ってる人たちである。 一回落ちて丸くなっているのかより先鋭化しているのかはわからないが、概ね同じような思考に陥っているだろう。
逆に予備校講師の方も生徒が難関大に合格さえしてくれれば、そのあとどうなろうが自分の合格実績という利害関係にある。当然予備校教師も、生徒の人間性なんかは無視してお勉強を教えているのが一番コスパがいいはず。 自分が習った塾の先生たちを考えると若い先生ほどその傾向にあった。まぁまずは合格実績を積まないと雑談が許される立場になれないのかもしれないが。
後になって思えば高校には含蓄のある話をしている先生もいたのだが、大体においてそういう先生ほどお勉強を教えるのは下手という傾向がある。 なので、受験に役に立たない大人の話なんか聞かねーよ、と視野が狭くなっていたぼくたちはそんな先生の話を聞こうとしてこなかったのだ。
荻野先生の場合、お勉強の指導の方でも結果を出していることで生徒もこの先生の話を聞く気になっているわけだろうし、それができた上でこういう話を聞かせられる先生っていなかったなぁと思う。
受験生の時にこういう先生にあたっていれば、大学生活をもっと有意義にできたのかもしれない。
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浪人したらぜひ。