非実在人物への責任「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」(森美術館)

ちょうどこれを書いている6/8まで開催中の、「マシン・ラブ」展を見に行ってきた。 というわけで仮にここからを読んで興味を持ったとしても、もう行けないのです。 残念。

展覧会について

オフィシャルの概要から

本展では、ゲームエンジン、AI、仮想現実(VR)、さらには人間の創造性を超え得る生成AIなどのテクノロジーを採用した現代アート約50点を紹介します。

とある、「ラブ」というのが名前に入っているのは

「マシン」とアーティストが協働する作品や没入型の空間体験は、「ラブ(愛情)」、共感、高揚感、恐れ、不安など私たちの感情をおおいに揺さぶるでしょう。

ということだそうだ。

美術展を見る予習をしていた

今年になって西洋の伝統美術(絵画)と現代美術について、「見方」を予習していたのだが、はじめて実戦の機会となった。

さて、この予習が生きたのかどうか。。

展覧会の感想

展覧会全体について

AIに関しては割とありがちというか、「エリスの林檎」というLLM同士が会話している様子なんかは、今更見なくても自分にはもう当たり前の風景になってしまっているなぁと感じた。

このブログも最近は書いたものを公開する前に下書きと合わせて「一般の読者、SEOコンサルタント、編集者の三人に読んでもらい、それぞれの観点から感想を言わせてください。その上で、3人に議論させて記事を改善してください。」とChatGPTにレビューしてもらっている。

それよりかは、もう一個のフォーカス「ビデオゲーム」と関連する作品のほうが個人的には興味深い。

「ビデオゲーム」と現代アート

ここで補足すると、必ずしも「ゲーム」という形式をとっているわけではない。ゲーム産業の中で作られてきたゲームエンジンを表現手法として活かした、といったように、ビデオゲームのエコシステムを応用する程度の意味合いである。

なぜ「ゲーム」を手段として応用するのかということを考えてみた。

3DCGの民主化

かつて3DCGでアニメーションを作ろうと思ったら、とんでもない金と工数が必要だったわけだ。 それがゲームエンジンを用いれば、個人でも非常にハイクオリティな作品を作れるようになった。

(UnityとかUnreal Engineといったゲームエンジンは、最近では産業用のデジタルツイン作りにも使われている)

新しい感覚

同じ「見る」でも、明らかなものを見るだけなのと、隠されているものを探して見るのでは異なる体験になる。 現実世界で作品に実際に触れてもらうのは壊されたりする危険もあり、あえて壊されたりすることを見込んだ作品でもない限り難しい。 その点、ゲームエンジンの作ったバーチャル世界なら、展示する側も安心して「触れる」作品を提供できる。

ゲーム自体が日常に組み込まれている

ライトなものも含めて、今は2人に1人はビデオゲームで遊んでいるそうだ。

www.gamespark.jp

ビデオゲームというものがもはや日常に組み込まれており、テレビゲームについての洞察が求められるようになった。

印象に残った作品:佐藤瞭太郎の「アウトレット

佐藤瞭太郎の「アウトレット」という映像作品が特に印象深かったので、個別の作品はそれだけピックアップしてみる。

wired.jp

ゲームのMOD制作やオープンソースのゲームで用いられていたであろうキャラクターのアセットを使った映像作品だ。

さまざまなアセットが生成されては弄ばれる(変な踊り(エモート)をさせられたり、全速力で走らされて「壁」にぶつけられたり) 特にコストコのようなホールセールや、人気のないショッピングモールに並ぶシーンが示唆深い。

この作品が展覧会のタイトルにもなっている「ラブ」との関連が強いかなあと思った。

通常テレビゲームは「早く走りたい」「強くなって敵を倒したい」だったり、「誰も悪意を持った人がいない優しい世界で理想のお家づくりをしたい」といった様々な欲望を満たしてくれる。 ということは、そこに出てくるキャラクターも当然、プレイヤーの欲を満たすための道具だ。

自己投影の対象としてのプレイヤーキャラクターはもちろん、主人公に負かされ、倒されるキャラクターたちもそう。

漫画やアニメと同様、ゲームのキャラクターにも「ラブ」を向ける人が多いが、キャラクターたちは自己決定しているわけではなく制作側に設計されて作られた存在なのだ。それに思いを向けることが、果たして「ラブ」なのだろうか。

今後、ゲームのNPCたちも生成AIが使われればより人間らしく振る舞うようになっていくだろう。 そうなった時には、「ラブ」はもちろんだけれども、戦争ゲームで撃たれるNPCはよりリアルに倒れていくことが技術的に可能になる。

しかしプレイヤーに罪悪感を持たせないため・ゲーム規制派に嫌悪を覚えさせないため、あえて倒れるときだけは旧来のような、「マシン」のようなリアクションしかとらせないかもしれない。

そういうことを僕は考えました。

展覧会情報

マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート

ビープル、ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレル、ディムート、藤倉麻子、シュウ・ジャウェイ(許家維)、キム・アヨン、ルー・ヤン(陸揚)、佐藤瞭太郎、ジャコルビー・サッターホワイト、ヤコブ・クスク・ステンセン、アドリアン・ビシャル・ロハス、アニカ・イ

www.mori.art.museum