AIでSaaSは死なないが見えなくなる

「AIでSaaSは死なないし、業務システムをAIで内製化してはいけない」

というSmartHR芹澤CEOのブログ記事を読んだ。

求人サイトのメッセージでSmartHR社からメッセージが来たのだが、そこで紹介されていた。

real.smarthr.co.jp

もちろんSmartHRはSaaS企業なので、「自分たちのモデルは終わりです」と言うわけがない。

だけど自分もSaaSは死なないというところは同じ意見。

ただ、「SaaSは「完成品アプリ」から 「意味を持つデータエンジン」に変わる」ということを考えている。

※ちなみに元記事に

「SaaS is Dead」の文脈で語られているのは「SaaS型業務システム」だと思うので、以降、その前提でお話しします。

という但し書きがあるが、この記事でも同じ前提とする。

SaaSとUI

この記事はNewspicksの取材に続いて書かれている。

newspicks.com

NewsPicksのインタビューは有料なので読めないが、先の記事よりも踏み込んだ議論がされているようだ。

ついていたコメントから推測するに、その中で芹澤CEOは「SaaSがユーザーとのインターフェイスを担うことは代替されない」という趣旨の話をしているように見える。

これまでのSaaSはUIを握り、データを蓄積しその蓄積がロックインになるという構造で強くなってきた。 UIも含めてベストプラクティスで「業務」を設計している。

ただ、自分は生成AIのある世界ではむしろ逆の未来が来るのではないかと思う。

SaaSはインターフェイスを持たなくなっていくのではないだろうか。

なぜそう考えたのか。

そのヒントは、よく悪者にされる存在の中にある。

属人化エクセルに現れる“標準化できない業務”

自分は今、業務で長年使われてきた管理会計用のエクセルと格闘している。

これが最初こそ財務のプロの方に発注して作ってもらったのだがその後の運用は素人が思いのままにシートを追加して、各自が自分の関係するシートだけ更新しており、誰も全体に責任を持っていない状態。

まさにSaaSのLPにある「こんなお困りはありませんか?」のモデルケースのような状態だった。

ただ、数週間にわたり過去のSlackのやり取りを追いながらエクセルに向き合っていると、様々な意図がわかってきた。

管理会計といってもフェーズや戦略に応じて追いたい数字は会社ごとに異なるし、業務を執行するメンバーも違う。

うちの会社は経理の専門家がいないことを前提に、厳密性を犠牲にした簡略化や、事故を起こさないために極力悲観的なシナリオでキャッシュフローの管理をしていたり。

ただ悲しいかな、そのあとでそういった意図はよく理解されずに素人が適当にシートを足していったことで管理としては破綻していた。

おそらくいろんな中小企業で同じようなことが起きているのだと思う。

今までのSaaSは、もうそういう独自運用はやめてベストプラクティスに沿った業務にしませんか?という提案だったという理解だ。

そして、事実下手に素人が「自社に合わせた業務」を作ろうとするよりもSaaS事業者の考えるベストプラクティスに則ったほうがよかったのだろう。

ただ本来は各社が本当に見たいものはもう少し違っている。 SaaSの限られた設定項目の中で、どこか折り合いをつけているのも事実。

そんな中で、生成AIは「ヘッドレスSaaS」+「バイブコーディングのフロントエンド」により、「自社に合わせた業務」を実現できるようになっていくのではないか?と考えている。

SaaSは「完成品アプリ」から 「意味を持つデータエンジン」に変わる

自分の考えでは、SaaSの本質は「意味を持つデータエンジン」だ。

  • あるドメインのデータを扱い
  • 正しい関係性を保ち
  • 意味のある計算や集計のみを可能にするもの

例えば、

客単価(円)× 顧客数 = 売上(円)

これは意味があるが、

客単価 × CAC(円)= ???(円²)

のような計算結果は意味を持たない。

また、ある社員の評価シートは、評価をする人が書いたものには意味があるが、本人や他人が書いたものは同じフォーマットであっても参照されてはいけない。

意味のあるデータが蓄積され、意味のある集計結果が取れるというのがSaaSの本質なのではないかと考える。

SaaS型業務システムからはずれるが、StripeやAuth0がわかりやすい。 彼らは「完成された業務アプリ」を売っているわけではない。 決済や認証というドメインの意味を保証するエンジンを提供している。

その上に、各社が好きなUIに組み込んでいる。

「System of Insight : 洞察のためのシステム」について

言及記事では

業務システムは「洞察のためのシステム」に進化すべき

ということが語られている。

でも企業経営で「人事システム」「会計システム」が単独ドメインで意思決定の精度を上げる、というのがあまりイメージできない。

意思決定には会社としての経営戦略があり、人事も管理会計も、その戦略と連動してはじめて意味が出る、という理解だからだ。

人事システムだけが、ほかの会社のベストプラクティスから出した洞察は、あんまり使えないんじゃないかという気がする。

極端な話、経営戦略によっては、非熟練で安い労働力を使い潰してすぐに辞めさせていくのが合理的な場合すらあったりもする。

だから自分は、将来的には各ドメインのSaaSが洞察のシステムになるより

  • 人事・会計などのデータがドメインごとに意味を持つデータエンジンとして存在し
  • エージェントが横断的にアクセスしながら
  • 会社固有の文脈に合わせて洞察を生成する

べきなのではないかと思う。

ユーザーがどうSaaSに触れるかは、WebのUIやアプリのこともあるだろうし、チャットボットかもしれない。またほかのイベントにフックして勝手にエージェントが読み書きするかもしれない。

SaaSはUIを捨てることでむしろ本来のポテンシャルを発揮できるのではないだろうか。