今月の学び番外編 なぜ欧州サッカーメガクラブはFFPを破るのか

ワールドカップ・WBCがあってからスポーツと金というテーマでいろいろ調べてみた。 マンチェスターシティというチームがFFPというルールを破っていたそうだ。ではそれはなぜなのか?

FFPとは

FFP(ファイナンシャルフェアプレールール)とは、UEFAの決めたルールである。 なのでヨーロッパのサッカークラブだけに関連するルールである。

簡単に言うとクラブ自体の売上以上に金を使ってはいけない。オーナーが資金をつぎ込んで赤字を補填してはいけないというルールだ。

FFPはサラリーキャップなどとちがいリーグ全体の戦力均衡を目的にしたものではない。 むしろ弱いクラブにとっては一年踏ん張っていい選手を取り、それでチャンピオンズリーグに行って売上を増やそう!みたいなことはできない。 むしろ弱くて世界的人気のないチームはそのままでいてね、というルールなのだ。

こういうルールがあるということは、サッカークラブに赤字承知で金を注ぐ人がいるということだ。

なぜ、決して価格に見合うほどの利益をもたらすことは少ないスポーツクラブに金を注ぎ込むのだろうか?

前史:チェルシー以降

もともとサッカークラブはヨーロッパの国では、成功したビジネスマンが地元に錦を飾るということで地元のクラブを所有するという文化があったそうだ。

ここサッカーの母国では、地元の人々が親の代から愛情を注ぐ対象としてクラブが存在する。地元クラブのオーナーは、サポーターとして育った英国人富豪にとっての夢だった。プレミアには、新オーナーの資金力でリーグ王者に成り上がったブラックバーン(現2部)という前例があったが、私財を投じたジャック・ウォーカーは地元出身の英国人ビジネスマン。

チェルシーという英国クラブにとってのロマン・アブラモビッチ。その別れは正しい成り行き - footballista | フットボリスタ

外国人がチームを買って、金の力でチームを強くするというのは結構最近のことで、2003年にイングランドプレミアリーグのチェルシーを買ったところからはじまるそうだ。

最新例の1人であるロメル・ルカク獲得に要した9800万ポンド(約147億円)を含め、移籍市場に投じられた資金は合計20億ポンド(約3000億円)を超える。買収時にチェルシーが抱えていた8000万ポンド(約120億円)近い負債の返済を肩代わりし、買収後には15億ポンド(約2250億円)に上る額を無利子で長期融資してもいるアブラモビッチは、今や外国人オーナーが当たり前のプレミアリーグでも最強レベルの後ろ盾であり続けた。

チェルシーという英国クラブにとってのロマン・アブラモビッチ。その別れは正しい成り行き - footballista | フットボリスタ

www.footballista.jp

国レベルでの投資

一方で、今FFP違反を指摘されているようなクラブは個人のビジネスマンレベルではない資金が流れ込んでいる。 エネルギー資源を持つ権威主義国家の政府系ファンドだ。

パリ・サンジェルマン(フランス リーグ・アン):カタールスポーツ投資庁

カタールワールドカップ決勝の主役、メッシとムバッペがふたりともいるクラブはカタール政府の持ち物だ。

リーグ・アンはリーグとして格が低めということもあり、チームごとの総年俸をみるとパリ・サンジェルマンだけが抜きん出ている。

2022年のFFP違反の指摘もパリ・サンジェルマンが圧倒的。

www.soccer-king.jp

マンチェスターシティ(イングランド プレミアリーグ):シティ・フットボール・グループ

アブダビの王族が所有する投資会社アブダビ・ユナイテッドグループの子会社。 (マンチェスター・シティだけでなくJリーグの横浜Fマリノスにも投資しているらしい)

このマンチェスター・シティはもともと怪しい噂が経っては有耶無耶(当初の話と比べるとはるかに軽い罰金)だけで済んできたという歴史があるそう。 しかし、最新のものはさらに違反の証拠がしっかり集まってきているという。 FFPも10年にわたって違反してきたとか。

www.dazn.com

ニューカッスル(イングランドプレミアリーグ)

まだFFP違反を犯しているわけではないが、、。 サウジアラビアの政府系投資会社がオーナーになった。

FFPの対象となる支出には設備投資が含まれないらしく、そちらのほうで金を使いまくっているとか。

スポーツウォッシング

一体なぜ、政府系投資会社はFFPを破ってまで投資するのだろうか?

チェルシーのような個人オーナーの場合は、自分の、チームが強い姿を見たいという情熱や名誉欲でも説明可能だ。 しかし、国が裏にいる投資ファンドは合理的な判断をするはずだ。

アブダビを含むUAE、カタール、そしてサウジアラビアはどこも深刻な人権問題を抱えている。 アメリカのNGO団体フリーダムハウスから発表されている自由度インデックスでは、どこもひどいスコアを叩き出している。

カタール

UAE

サウジアラビア

幸いなことに、日本は「Free」。

freedomhouse.org

カタールワールドカップの際も、カタールの人権問題がさわがれた。 UAE、サウジアラビアといった国々も「カファラ」制度の元で移民を二級市民として迎え入れて働かせている点はカタールと同じ。

www.amnesty.or.jp

これに対抗するのがスポーツウォッシング。 カタールやアブダビといった名前がポジティブな話題の中で出てくるようにすることが狙いだと言われている。

shinsho-plus.shueisha.co.jp

Twitterの感情分析で、ワールドカップ開始前と後でQatarという単語の扱われ方を比較したらどうなるだろうか。 ざんねんながらそれを調べられるサービスや調べたデータを見つけることはできなかった。

これは想像なのだが人権にうるさいメディアに対して保有クラブの取材をさせない等も可能になるのではないか。 強いコンテンツであるサッカーで他社に遅れを取ってまでは中東の国の人権とりあげなくてもいいか、、とメディアに対する踏み絵としても機能しているのではないだろうか。


2022年の1年間、「今月の学び」として毎月1テーマ調べ学習をして成果をブログに書くということをやっていた。 それの番外編でした。

k5trismegistus.me