東京都現代美術館でやっていた「MOT Annual 2023 シナジー、創造と生成のあいだ」に続いて、またしてもアート系のイベントについて。「都市にひそむミエナイモノ展」というのに行ってきたのでその感想を書く。
訪れたきっかけ
「スペキュラティヴデザイン」という言葉を知り、「20XX年の革命家になるには スペキュラティヴ・デザインの授業」という本をちょうど読んだところで著者の長谷川愛さんが展示をしているイベントがあることを知った。それが「都市にひそむミエナイモノ展」だった。
展示
この企画展はSNS上でバズっているらしく、「How (not) to get hit by a self-driving car」という、AIに人間だとバレないように横断歩道を渡り切れるか?というアクティビティが人気だ。
ちなみに僕はあっさりクリアできた。コートを使って体をすっぽり隠した状態でいけば楽勝だった。
目当てで行った長谷川愛さんの展示「Parallel Tummy 2073」は、体の外に子宮を持つことができ、生まれる前の子供を女性の体の外で育てられるようになったら社会がどう変わるか?というワークショップだった。 LARP(ライブアクションロールプレイング)と呼ばれるジャンルだ。
定期的に会場でワークショップをやっているらしく、そのワークショップで生まれたコメントが付箋でどんどん増えていくというものであった。ファシリテーターは付かないものの複数人で訪れていれば自分たちでもワークショップを体験できるようにもなっている。
この長谷川愛さんの展示に限らず、展示期間中に集まったコメントが反映されていくという展示が多かった。)
芸大生と語ろう
会期中の水曜日の夜には東京芸術大学の学生とビジネスの課題についてアート思考からアドバイスをくれるというイベントをやっていた。 ちょうど訪れられるのが水曜日の夜ということで、ちょっと参加してみるつもりで寄ってみたが結局会場が閉まるまでいることになった。
一つ言うと、芸大生と話せるといいつつ現役生は一人しかいなかった。笑
実際にはビジネスの課題について話している人はいなくて、むしろ芸大で学んでいるような人がどう実社会で役に立つか?芸大側から芸大生・出身者がビジネスの場で活躍できるんだというのをビジネス側に知って欲しいという趣旨だった。
毎回3人くらいしか来ないらしいのでぜひ行ってみて。
私立の美大に比べて、芸大はセクショナリズムが強く「油絵学科」「日本画学科」といった手段での区分けがされているけれども若い学生たちはそんな縛りはあまり気にせず自由にやっているとのことだった。 油絵学科は入試の科目が油絵ということで入学してからはメディアアートをやってみたり自由だということだった。
私立の美大ではアートの手法を役に立てるべくサービスデザイン学科だとか情報デザイン学科といった新しい学科を作っているのに比べると、芸大ではビジネスマインドを持った人が油絵学科や日本画学科にちらほらまぎれているだけで芸大生が企業側からも選ばれにくい仕組みを生んでいるのではと言うことだった。
実際にはサービスデザインを学んでいたりしても、「油絵学科出身です」と言われたら確かに企業側としては雇いづらいだろうなぁと思う。
しかし今のビジネスでは、絵だったりデモだったりで価値を伝えることが求められている。そんな時には芸大・美大で学んだことや役に立つんだろうなと思う。 最近読んだ「コンセプトの教科書 新しい価値のつくりかた」という本の中でも、コンセプトを絵にして伝えることの重要性が語られている。
スペキュラティヴ・デザインは必ずしもいい未来を見せるものではないが、そこで学ぶ手法は企業として自社プロダクトによってもたらされる素晴らしい未来を雄弁に語るのに大いに役にたつはずだ。
東京都の限界
展示自体は「スペキュラティヴ」なものである一方で、東京都からのメッセージと思われるものは「プラスチックをリサイクルしよう」とか「東京の地下には大雨が降っても水害を防ぐ地下通路があるんだよ」といった社会科見学レベルのメッセージが並んでいた。
これについては芸大生と語ろうイベントにいた、企画にも携わっている人が裏話を教えてくれた。
展示自体はSFみたいなものが多いけど、東京都の職員としては5年後の東京を考えるのが精一杯で、5年後の東京のことしか書けないですよーと東京都側の企画の人が言っていたらしい。だいぶアーティストの見ている時間軸と、SusHi Tech Squareの運営側の見ている時間軸にはまだ乖離があるようだ。
また、東京都側は「アート思考」と言うのをとりあえず「すごい発想」が出てくるものだという解釈でやっているようですよ、みたいなことも。
SusHi Tech Squareとは
「SusHi Tech Tokyo」という、サステナブルと寿司をもじったキャンペーンをやっている。
こうした時代の中で、 “次世代につなげる都市像”を示していくために、 “Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo”を 東京から世界に向けて発信していきます。
SusHi Tech Tokyo は、職人の技術を通じて 旬の素材をひとつの文化へと昇華させてきた“鮨”を再解釈。 最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、 世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出します。
なぜ鮨なのか、全然納得のいく説明じゃない、、。
www.sushi-tech-tokyo.metro.tokyo.lg.jp
この一環として、メディアアートの企画展示スペースとインキュベーションオフィスを兼ねた施設として生まれたのがSusHi Tech Squareということのようだ。
有楽町駅前の東京オリンピックのプロパガンダ施設がSusHi Tech Squareとして生まれ変わったわけだが、いまだに展示の一部はオリンピックが残したレガシーみたいなものになっている。
アーティスト
菅野創+加藤明洋+綿貫岳海、gluon + 3D Digital Archive Project、Qosmo、佐藤朋子、セマーン・ペトラ、Tomo Kihara & Playfool、長谷川愛、藤倉麻子、平野真美、島田清夏