ソフト・アンド・ウェット

最近お金の話にすごい興味がある。ついこの間まで読んでいた「貨幣の『新』世界史」はなかなかおもしろかった。お金の起源は物々交換を円滑にすすめるためのトークンであるという「ハード」的な考え方とお金の起源は相手に負債があることを示す手形のようなものであるという「ソフト」的な考え方の対比など、とてもエキサイティングだった。
現在お金に関していちばんホットな話題といえば暗号通貨というわけで、この次は「ビットコインとブロックチェーン」という本をよむつもり。

 


というとなんかすごい理屈っぽい話ばかりに見える。でもそれだけでなくもっとさもしい話、Amazonで買い物するときにはこうするとマイルがちょっと上乗せされる、みたいなほうも大変興味がある。使いもしないクレジットカードを申し込んだり、毎日ポイントサイトでお小遣い稼ぎにはげんだりしなくても単に日々の買い物を現金でなくカードで行うようにすれば、3年くらいで東南アジアくらいならいけるらしい。

現在ではマイレージ関連サービスが航空会社の事業の柱の一つになっているという指摘もあるらしいが、実際ポイントカードの世界はものすごい奥が深い。
中高生の頃読んでいた日経トレンディのおかげで世の中にはポイント交換という仕組みがあることは知っていたが、JALのマイルをANAのマイルに交換するルートがただ一つだけ存在するだとか、ポイントを交換するルートを作るためだけにクレジットカードを作る人がいるとか、試そうとは思わないがよくそんなことを発見したものだと感心してしまう話がごろごろある。

  
といった話をみていて思ったんだけど、「ポイント」って普通の人が考えているよりもやばい存在なのではないだろうか。
昔はポイントカードといえば発行されたところでしか使えないものだったけれども、TポイントやPonta、dポイント(これが三大共通ポイントサービスらしい。楽天ポイントもあるね)の登場によって状況は大きく変わった。日々コンビニで買い物することによってたまったポイントにより旅行に行くこともできるし、その逆もしかり。現金まではいかないけれども、商品券よりは高い流動性を持っているといえるのではないだろうか。

単なるロイヤルティーサービスではなくて、もはや通貨に近い存在にまで進化しているのが今のポイントだと思う。
直近のマネーストック統計を見ると、M1はだいたい650兆円くらいだった。なんでM1と比較するかというと、ポイントとM1の流動性が同じくらいだろう、という適当な考えによる。
野村総研の統計によれば2012年時点でポイント・マイレージの発行額は9000億円弱。今はもう1兆円を超えているだろう。発行額がそれなので、口座に残っている額は3兆円相当くらい?だとしてみる。※
そうするとM1の0.5%ものポイントが世の中にあることになる。

これって相当でかい話なんじゃないだろうか。中央銀行が制御できない「通貨のようなもの」がM1の0.5%もあるのだ。その「通貨のようなもの」の価値はいったい誰が保証しているのか?
古典的に考えるとカルチュア・コンビニエンス・クラブは発行したTポイントの総額分資産を持っていないといけないことになるだろうが、おそらくそんなことはないだろう。
「通貨」であれば発行主体の信用が低くなればその価値は下がる(管理通貨制度のもとでは)わけだが、ポイントは不思議な事に円と価値がペッグされている。Tポイントの発行額が増えるほど価値が下がる、なんてことは聞いたことが無い。

今はまだポイントの発行額が少ないけれども、このままポイントが増え続けて実際のお金の流通量から見ても無視できない額になっていったらどうなるだろう。
今のところ国内で流通しているポイントはほとんど国内で閉じているものであり、JAL/ANAのマイルが航空会社アライアンスを通じてグローバルに開かれているものといえるだろう。しかし将来国際的なポイントサービスが出てきて、しかも何十兆円もの流通量に成長したら?グローバルな営利企業によって通貨が勝手に発行されている自体にもなりかねない。

われわれがよく知っている「お金」の概念をゆるがすのはブロックチェーンだけではないかもしれない。

※人間は同じお金なのに口座Aに入っているお金と口座Bに入っているお金を別物として考え使いみちを制限する傾向があるらしい。これはポイントにもあてはまるだろう。溜まっているポイントは日々の買い物にすぐ使ってしまうタイプの人と、ためてちょっとでかい買い物をポイントだけでしてやろう、みたいなタイプの人が世の中にいると思う。どっちも支払うお金の量は同じだとしても。