前回の記事で、人間を人間らしくないことから解放するテクノロジーによってほとんどの人間は不要になってしまい、投資がされなくなるだろうということを書いた。つまり、基本的人権のような考え方が過去のものになるということだ。
それを補強するような話を見つけたので追伸。
アフリカの人々を苦しめるオランダ病
喰い尽くされるアフリカ 欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日
- 作者: トム・バージェス,山田美明
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/07/26
- メディア: 単行本
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今読んでいる、アフリカの天然資源が国を富ませて国民を苦しめている現状について書かれている。※
現在GDPがアフリカ大陸第一位であるナイジェリア。このナイジェリアは政府歳入の7割が石油関連である。国民が納税する所得税とか消費税といった税金より、2倍以上がただ地面から出てくる液体にかけるマージンから得られているのだ。
ナイジェリアの工業力は低いので、NNPCという国営石油会社があれど開発の実情は海外オイルメジャー頼り。 石油で豊かになるのは油田の権益をもつ権力者だけという構造になっているそうだ。権力者が石油権益を誰に出すかどうかというので、マージンを抜いたり賄賂を受け取ったりで莫大な富を築き上げる一方、国内に関連産業があるわけではないので経済効果は広がっていかない。
こういう事象をオランダ病と呼ぶそうだ。
ナイジェリアの石油
ナイジェリアのGDPは約4000億ドルで人口は約2億人。その一方で、ナイジェリアには8700万人の極度貧困層(1日200円以下で生活する人々)がいる。 1人あたり平均GNIが2000ドル近いことを考えると、かなり歪んだ数字であるといえよう。
政府にとって、自分たちの収入は70%が石油から出てくるものだ。そのような状況で考えれば、自国民よりも海外オイルメジャーのほうを向くというのはとても理にかなった選択である。 内需の強い日本だったら、国民が飢えて働けなくなれば税収が減るので経済的にも国民の最低限の生活を保証する経済的なインセンティブが存在する。 憲法ガー基本的人権ガーという理念的な話抜きに、国民に福祉を提供したい理由があるのだ。
でも、ナイジェリアだったら何百万人餓死しようが、石油が地面から湧いて出てくる限り政府関係者にとってはそれほど関係がないのかもしれない。 当然そんな単純な話ではないと思うが、ナイジェリアの政治家と日本の政治家の国民の命の重さに関する認識はだいぶ違うものであると想像される。
ナイジェリアの石油産出量は相当なものだが、ナイジェリア国内には充分な燃料が存在しない。
同じようなことは同じく石油の出るアンゴラや金属資源の豊富なDRCでも起きている。
ちなみにナイジェリアの統計はこちら
データは21世紀の石油か
政府の税収が国民からではなく、アルゴリズムやデータから得られるようになってしまったとしたら、これと同じようなことは起きうるのではないだろうか。
データが21世紀の石油であるという議論がある。アナロジーなので、どのアスペクトを重視するかでこれに同意できるかどうかは割れるところだと思う。
僕はデータ(やアルゴリズム)は石油以上に苛烈な形でオランダ病を引き起こす可能性があると思う。
1lの石油は1lの石油にすぎないので、石油から得られる利益はO(n)である。(nはなんだ、という無粋なツッコミはおいといて。イメージですイメージ。) でも、コンピューターの生み出す利益はO(n)より早く増大する。 石油産業よりもより少ない人数で、より多くの富を収奪できる、本質的なテクノロジー上の断絶がある。
アフリカの独裁者が石油で富を作れるのは、自国外に豊かな国民を多く抱えた国があって、そこに石油を売るほうが自国民を富ませるよりも儲かるという非対称性が存在する限りである。 世界中がナイジェリアだったら成立しない。
だからどこかで均衡点に達して歯止めはかかるとは思うんだけれども、それでも大多数の人々が今よりみじめな状況に落とされるのは近い未来起きるだろう。
※
ちなみにこの本、いろいろ知らないことがのっていて面白い。 Nvidiaが「謎の半導体メーカー」と日経に取り上げられたとき、やたら大騒ぎしている人たちがいたが
自分の狭い知っていることが世間では知らないことになっているのでマウンティングをしているのはとても浅ましいことだ。 特に自分のいるエンジニア界隈でこんなことを言っていた人たちの多くはBHPビリトンとか中国中車とか知っているのだろうか。 (僕もBHPビリトンという会社が存在すること、そしてそこが鉱業分野で世界最大の企業であることはこの本を読んで初めて知った;;)
あと、ニジェール・モンテネグロ・パラグアイがそれぞれアフリカ大陸・ヨーロッパ大陸・南アメリカ大陸で非合法な物流の拠点になっているという話もあった。世界には知らないことがたくさんある。