学力よりも経験重視は悪いことなのか

前回の記事で紹介した「資本主義が人類最高の発明である」を読み終えた。

タワーマンションのアイヒマン - 未来世紀アラカワ

これと、最近のマイブーム?である大学受験の間にある話。

※でここでお断りとして、僕は高校も大学も推薦入試というのを利用したことがないし、自分の高校にはそもそも推薦という制度がなかったのでかなり憶測で書いてる部分があります。

「体験格差」

「体験格差」、最近のネット流行語といってもいいくらいよく目にするようになった言葉だ。

gooddo.jp

で、近年の大学入試は推薦入試やAO入試が増えており、私立大学だともはや一般入試は少数派という時代であるらしい。

そういう制度のもとでは、親が金持ちである方がいい「経験」を積むことができ、一般入試よりも生まれた家庭の影響が大きくなるという声がある。

toyokeizai.net

個人的には以前の記事で書いたような環境にいたこともあって、推薦入試とかAO入試で入れる大学って(笑)くらいの認識でいた。

k5trismegistus.me

でも、大学教育の目的が「よく勉強した子に賞をあげる」ことじゃなくて、「社会に良いインパクトを与える」ことだよね、と。 それが親の経済力に由来するものだったとしても、「経験」によって学ぶ目的を持てている人が行った方が、意義があるのではないかと思うようになってきた。

今になって思うと、大学入試の「難問」が解ける学力って、大学で学ぶ学問にはそこまでつながるものでもないように思える。

東大院の院試だって難関の研究科以外は基本的な学力試験と「なぜ修士課程で学びたいか」を聞かれる面接で、まさに噂で聞くAO入試のようなものだった。

思考実験

ある私立の大学、Z大学がある。こんな大学だとする。

  • Z大学は私立大学では最難関で、卒業生の多くは一流企業に就職する。
  • Z大学の理工学部には逆浸透膜(水を超綺麗にするフィルターだと思って)の専門家がいる
  • Z大学は私立大学ではあるが卒業生の寄付も多く、給付金や奨学金が充実しているので優秀な生徒はそれほど費用負担なく通える

この学部に、これから出てくる三人の誰が行くべきだとおもいますか?

  1. 親がとてもお金持ちで、中高生の頃に世界中を見て回っているし、海外の高校も通っていたことがある。その結果、紛争地域でも安全な水が飲めるようにしたいという強い思いをもち、逆浸透膜について研究しその成果をもとにスタートアップ企業を起業するつもり。化学は目標もあってよく勉強しているが、数学や物理は今ひとつで一般入試でZ大の理工学部に入学する学力にはない。過去の経験とやりたいことでAO入試での合格を狙う。

  2. 親は安定した会社員で、経済的には富裕層ではないけど不自由はない。私立高校に通っている。学校の授業にも部活動にも真面目で、学校の先生の覚えがとてもよく、成績も良い。学力的には一般入試でZ大学に合格できる水準ではないが、通う高校に指定校推薦枠があり、学校の成績的には利用できそう。Z大学に行ってやりたいことが強くあるわけではないが、コスパよく一流大学に行けるのでそれを利用して合格を狙う。

  3. 親の仕事は不安定で、経済的には困窮している。公立高校に通っている。塾や予備校には通えないが、学校の先生の助けも受けながら勉強し、Z大学にも合格できる水準にあるが、さらに上の国立X大学には手が届かなそう。 良い大学を出て一流企業に就職し、安定した収入を得て貧しいながらも大学に行くのを応援してくれている親にも恩返しをしようと思っているが、Z大学なら貧しい家庭でも補助があることを知り、一般入試での合格を狙う。

かなり恣意的なストーリーだが、この中であれば、僕は1が行くべきだと思う。 3はまあ美談だとは思うけれども、社会全体への還元という意味ではあまり意味がない。2は論外だ。

1の子がここまで明確な目標を持つきっかけを得られたのは間違いなく親が金持ちだからである。 でも、ただそのきっかけを単に「珍しい経験をしてます」ではなく学ぶ原動力に変えられているのもまた事実。

体験格差の影響を減らすんじゃなくて体験格差を減らすことを考えるべきでは

AO入試は体験格差の影響が大きいから一般入試の方がいいというのは、よく考えると臭いものに蓋でしかない。 もしAO入試で入ってくる学生の方が優秀な傾向があるんだとしたら、AO入試自体を抑制するよりも体験格差そのものを減らすことを考えた方がいいのではないかと思う。 (上の思考実験もただの思考実験だし、AO入試の方が一般入試よりも優れた学生を選抜しうるという客観的データもないので、もしそうなら、ということ。またとにかく学生を増やしたいだけの大学が"お客さん"を量産している悪いAO入試も横行しているだろう。)

大学だったり、科学館や博物館が小中高生を選抜し「夏休みの宿題サポート」に留まらない実際的なプログラムを運営する(で、日本はこのままだと滅びるとかいってる金持ちに「危機感があるなら口だけでなく金を出せよ」と寄付してもらう)とか、親が裕福でなくても素質がありそうな子に良い体験をさせることを考えるべきじゃないだろうか。